小児在宅技術講習会にて、成育医療研究センター耳鼻咽喉科の井上剛志先生の講義を受講しました。
テーマは「小児の気管切開」についてです。今回の研修内容を踏まえ、これまでの知見や情報と合わせ、小児S Tとしての思いをまとめてみました。
そもそも気管切開とは?
気管切開とは、長期にわたり人工呼吸器が必要な呼吸不全、肺疾患や上気道狭窄(生まれつき声門狭窄や舌根沈下などが原因で、空気の通り道が確保しづらい)などで呼吸のし辛さを抱える方に対し、喉から気管までを切開し呼吸を楽にする方法です。
多くの場合は、穴が塞がらないように、気管カニューレという管を入れ、必要な場合は、そこに人工呼吸器を装着する場合もあります。また、誤嚥が多く気管支炎や肺炎などを頻繁に繰り返される場合は、喉頭気管分離(唾液や食べ物の気管への流れ込みを防ぐために、気管を離断する方法)が検討されることもあります。気管切開は、誤嚥リスクは残りますが、鼻や口からの呼吸も残っているので、声が出る可能性があります。一方、喉頭気管分離は喉頭と気管が離断されている為、誤嚥は起こらないものの、呼吸は完全に気管孔に依存する事となり、声が出せなくなる事を理解しておく必要があります。
引用文献:令和3年度小児在宅技術講習会「小児の気管切開について」
小児と成人との違い
- 成人に比べ、気管切開カニューレを長期に使用しているケースが多い。その為、年単位での成長や病状の変化に対応する必要が生じる。
- 成人に比べ、喉頭や気管のサイズも小さく柔らかなので、些細なトラブルで窒息するリスクがある。
<想定できるリスク>
⇨自己抜去(自分でカニューレを抜いてしまう)。カニューレが、ガーゼ下にあると気づきづらい。
⇨喀痰によって、カニューレ(管)内部が完全に詰まってしまう事がある。etc
気管切開の管理
○適切なカニューレの選択
→成長や側弯の進行により変わる事がある。
→呼吸状態によってカフ(気管チューブや気管切開チューブ先端部分についている風船状の物で人工呼吸中の空気の漏れ防止と誤嚥の防止が役割)の有無が必要となったり、声を出すためにカニューレを細くする場合がある。
○カニューレバンド(柔らかいバンドで優しく気管切開カニューレを固定する物で、カニューレホルダーとも言われる)
→成長に伴って、適切な長さのカニューレバンドを装着する必要がある。
→基本的には指1本分の余裕があると良いとされている。
*長年在宅でカニューレ管理されていても、緩いために肉芽(外傷や炎症による組織欠損部分が修復する際にできる新生組織)ができる人もしばしばいる。
○カニューレ部の安静
→呼吸器との装着で引っ張られていないかをチェックする必要がある
○カニューレの管理
→定期的にネブライザーを行い、痰がカニューレ内部で固まらないようにする
→適時、吸引を行い喀痰を除去する
→カニューレ自体を定期的に交換する
肉芽ができやすい部位
肉芽ができやすい部位は主に3つです。
①カニューレ入口の見える位置
:出血しやすくなったり、カニューレ交換しづらくなったりする。カニューレを引っ張ると、Yガーゼの汚れがひどくなっている事が多く、ステロイド軟膏を塗布して対応する。
②カニューレ直上位置
:声が出しづらくなったり、カニューレの抜去ができなかったりする。小児の場合、この部位に肉芽が出来ているお子さんが多い。
③カニューレ先端位置
:肉芽で閉塞され、呼吸がしづらくなる。
*稀に肉芽が瘢痕化し、ステロイド塗布では対応できずに手術で肉芽を取り除く場合もある。
引用文献:令和3年度小児在宅技術講習会「小児の気管切開について」
気管切開閉鎖に向けて
前提条件
・長時間の自発呼吸でも呼吸状態及び全身状態が安定している
・誤嚥がない
・咳嗽(咳)がよく出る
・直近で手術予定がない
*上記条件が満たされても、気管切開カニューレが必ずしも抜去できるわけではありません。
スピーチバルブについて
気管切開していても、発声用のバルブを用いることで、発声が可能となります。ただし、自発呼吸が安定していて、喉頭の機能が良好でないと発声に至る事は困難です。スピーチバルブは気管切開孔から空気が入り、呼気は口の方に抜けるために発声ができる仕組みとなっています。人工鼻からスピーチバルブに切り替える事ですぐにお話ができるようになるわけではありません。チューブの太さや呼吸方法が変わるため、呼吸のし辛さを訴えるお子さんが少なくありません。スピーチバルブを使う許可が出ても根気強く継続したリハビリが必要となります。
引用文献:令和3年度小児在宅技術講習会「小児の気管切開について」
最後に
様々な理由で気管切開カニューレを使用されているお子様がいらっしゃいます。約20年の療育経験において感じている事は、気管カニューレ抜管の難しさです。担当医より、抜管に向けたリハビリを指示される事が、なかなかありませんでした。お子さんの身体機能や知的レベル及び不器用さによっても異なりますが、スピーチ以外の方法でコミュニケーションを楽しむ術を探っていく必要があるという事です。コミュニケーション手段にはスピーチ以外にも、身振りや写真、イラストなど様々な方法が挙げられます。話し言葉に限る事なく、お子さんの発達特性に合わせ、どのコミュニケーション方法で深めていくことが良いのかを、保護者の方を始め周囲のスタッフとも共有して探っていきたいものです。
今回は、医療従事者でなくとも、分かりやすい情報にまとめられたらと思いましたが、ある程度の解剖知識が無いと、理解しづらい分野だなとも思いました。身近に気管切開をされているお子様がいらっしゃる際の参考になれば幸いです。今回の記事をきっかけに、子どもの状態に関してもっと知りたいと思って貰えたら嬉しいです。
引用文献:令和3年度小児在宅技術講習会「小児の気管切開について」
成育医療研究センター 耳鼻咽喉科 井上剛志
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