今回お話し頂いたのは、九州大学病院耳鼻咽喉科の松本希医師です。上記セミナーは、2020年9月に開催されましたが、忘れない為にも年末のこの時期に講義内容を自分なりにまとめてみました。
そもそもの『両耳聴効果』とは、その名の通り片方の耳だけでは得られない両耳ならではの効果のことで、その効果は4つに分けられています。
- 両耳加重効果
→片耳ずつの聞こえよりも、両耳で聞くと少しばかり大きく聞こえる(3〜5dB程度) - 投影効果
→音源までの距離が右耳と左耳とでわずかに異なる時に、音が反対側に回り込んで聞き取れるまでに音が減衰して(15dB程度)小さくなり聞き取られる事。片側難聴の場合は、聞こえづらい耳の方に話しかけられても、より一層聞き取りづらいという事が生じる。 - 音源定位効果
→どの方角から音が生じているのかを聞き分けられる - スケルチ効果
→雑音が多い中でも聞き取りたい音を聞き取る事ができる
上記4つの効果を調べた結果、中途失聴の成人分野においては、「人工内耳の両耳聴効果あり」という成果が認められているが、先天性聴覚障害分野では、確実な両耳聴効果のデータは未だ発表されていないという事でした。
ただし、小児分野においても「両耳聴効果あり」と期待できそうな症例は出てきているようです。現段階で「人工内耳の両耳装用」は、耳鼻科医より積極的に勧めるというより、保護者の希望が強く他のリスク(重複障害の影響でマッピングや療育が進みづらい事や奇形の問題)がなければ、その希望に応じて両耳装用の手術を行っているようです。また、両耳装用するのであれば、もう片方の手術も半年以内と早めに実施した方が、人工内耳の成績が良いようです。間を空けるほど後でオペを実施した人工内耳のデータが、先に装用した人工内耳のデータに追いつきづらいという結果を話されていました。
その他に、両側人工内耳のデメリットの話もありました。
- 費用が2倍となる
→電池代や部品代・ケーブル代などのランニングコストがかかる - 人工内耳の適正なマッピング(音の調整)に時間を要する
→小児の場合、マッピングに協力・集中できる事が少ないので、適正なマッピングに至までに時間を要する事がある - 平衡機能の問題
→25人に1人の割合で、バランスが悪くなるケースが出ている
上記3つのデメリットを紹介されていましたが、人工内耳を両耳装用されるお子さんは、確実に増えています。言語聴覚士の立場からすると、どちらかの人工内耳にトラブルがあった時に、もう片方の耳が使える状況にあるのは有り難く思います。また、どの分野においてもそうですが、「脳の可塑性」を信じて両耳聴効果にも期待していきたいところです。最終的に思うのは、両側人工内耳をすれば、聞こえの問題がなくなり言葉が追いつくというわけではありませんので、担当の療育関係者と根気強く言葉を育てる作業をこなしていけるかがポイントだと思います。
コメント